Masuk「プライド高い人が多いのは間違いないよな。この大学、そこそこ偏差値高いし」「そこそこって……。私、結構頑張って入ったよ?」「俺滑り止め。第一志望は水無瀬大だった」「ここを滑り止めにする人がいるから偏差値が上がって大変なのに」キッと彼を睨んだと同時にボンゴレがテーブルに到着した。「でも水無瀬大、落ちて悔しかったけど、結果的に良かったかも」「ももちゃんにまた会えただろ?」爽やかに笑うなあ。ボンゴレのパセリでも歯にくっついてたら笑い飛ばしてやったのに。綺麗な食べ方するから私、何も言えない。「俺、ももちゃんにずっと会いたかったんだよ?」「わ、私だって」「俺と付き合って」付き合ってって、言いましたよこの人。「い、今は、恋愛よりも自分の道を創るんじゃなかったの?」「ももちゃんと付き合うって選択肢が無いんだったらそうするつもりだった。でも今はフリーになっただろ?」「フリー……そうだけど」「初恋の姫と奇跡の再会を果たしたんなら告るしかないでしょ?」そうちゃんと私が付き合う?彼氏彼女の関係になる?ていうか初恋の姫って何なのよ。想像したことは一度じゃない。何度もうっすら考えた。でもその度にロミオでの冷たい速水くんを思い出した。速水くんの冷たい眼は「薄っぺらい恋愛しかしてないお前と俺が釣り合うわけないだろ?」とでも言っているかのような。水を顔に浴びせられたような感覚を呼び起こしていた。「わ、私が伊沢くんと付き合ってたときに冷たかったのは」戸惑う私を目を細めて見ていた彼は突如顔をしかめた。「元彼の名前、出さないでくれる?ただでさえ他の男の名前は聞きたくないのに」名前すら聞きたくない。それって……。「ねぇそうちゃん。もしかして……妬いてたの?」「悪いかよ。ああ妬いてたよ。嫉妬してたよ」「妬いてたから、冷たかったの?」
ジュースとポップコーンはそうちゃんが買ってくれた。私が「それぐらい払うよ」と申し出ても「今日は格好つけさせて」と制されたからだ。映画のチケット代だって受け取ってくれなかった。「こういうのは男が払うもんだろ」って取り合ってくれなかった。同い年だし、バイト先だって一緒なのに。私は対等でいたいんだけど。何で男子って奢ることで格好つけれると思うんだろう?気持ちは嬉しいけど、私はちょっと居心地悪い。落ち着かない。映画はサスペンスもので、面白かった。何を見るか決めるとき、そうちゃんが好きそうなアクション映画を提案したけど「もう観た」と却下された。誰と観たかは気になったけど聞かなかった。「あのトリック、俺気付けなかったわ……」「私も……」エンドロールが終わっても軽く放心状態の私達は、ゆっくりと階段を降りていった。「ももちゃん、それ貸して」ポップコーンとジュースを載せていたトレイを私から受け取るべく下段から手を差し出した。ん?これって?王子様ポジションってやつですか?意図してやってたら手練れ。そうじゃないならこの人私の心を掴む天才かもしれない。「ももちゃん?」「……あ、ああ。はい」見惚れてた。私、今、王子様ポジションのそうちゃんに見惚れてたんだ。何これ。ちょっとドキドキするじゃんか。「今日、何時まで大丈夫?」ショッピングモール内のサイゼリヤ。私の定番は半熟玉子のミラノ風ドリア。たまにはパスタやハンバーグを注文することもあるけど、お金の少ない学生の身には結局これが落ち着く。「特に決めてないよ」「美樹さん何も言わねえの?」「何かね。もう遅くなっても言われなくなった」「そうなん?」そうちゃんが何杯目かのコーラに口をつける。ロミオでコーラを飲むと一杯500円近いのにドリンクバーだと沢山飲めれるってなんだか不思議だ。そうちゃんのカルボナーラはとっくに姿を消していた。
「そうちゃん」「ん?」といってもな。亜樹の話だしな。勝手にそうちゃんに話すってのは違うよね。「そうちゃん、元カノと遠距離恋愛になるから別れたんだっけ?」「え、何、急に」「いいから」亜樹の名前を出さずに男心を知るには、まずは目の前にいるそうちゃんの恋バナを参考にするといいよね。「俺、もう元カノのことなんて忘れたよ。今はももちゃんが」「そういうことじゃなくて」そうちゃん、私がそうちゃんの元カノを気にしてるとか思っちゃったか。どうしよう。そうちゃん、ちょっと慌ててる。「俺、今はももちゃんしか見てないから」「口説かなくていいから。そうちゃん、ちょっと元カノとのお話、教えて?」首を傾げてそうちゃんの目をじっと見つめる。そうちゃん、やっぱり背が高いな。3秒ぐらい見つめていた。そうちゃんの顔が少し赤くなってきた。「……何で、元カノの話をそんな可愛く聞こうとするかな」「あ、そうちゃん、電車来てるよ。急ごう?」「も、ももちゃん」繋いだままの彼の手を引っ張って階段を気持ち駆け降りる。良かった。問題無く乗れそうだ。「──で、そうちゃん。教えてくれる?」「ここで?」「うん。軽くでいいから」「軽くか……」しまった。これではそうちゃんと元カノとの恋を軽いものと言ってるみたいじゃん。「ごめん、そうちゃん。その、元カノさんとのことが軽いものって言いたいわけじゃなくて」「ああ。それは、わかってるからいいんだけど」電車の中は程良く混んでいた。これだけ人がいる中でプライベートな話をさせるのも違うか。「やっぱ、いいや」「え?」「電車の中でプライベートな話って、嫌でしょ?」「あ……別にいいけど。終わったことだし」「ううん、でも、電車じゃないときにするよ。ちょっと参考にしたいだけだから」「参考?」眉を顰め
「お母さんの友達の息子さんが、その幼馴染なんだけど」「そうちゃんって呼んでるんだって」「ちょ、亜樹!」楽しそうに合いの手を入れてるのも今のうちだよ?亜樹。「大学、同じだったの」「えーっ!学科どこ?まさか国語科の中に……」わくわくしまくってる真希に真顔で「いないってば」とツッコむと、わかりやすくがっかりした。そうちゃんが国語科の中にいても、それはそれで楽しかったかもだけど。「国際コースなの」「へぇ。国際コースってだけでおしゃれに聞こえるね」真希の食べてる焼き鳥のパックから私も焼き鳥の串を取る。うん、お酒と焼き鳥って合うよね。「国語科って好きだけど、聞こえは地味だよね」「社会科も大して変わんないでしょ、花音」まあね、と花音も焼き鳥の串に手を伸ばした。「でも教員養成課程じゃない人とは授業あんまかぶらないじゃん?どうやって再会したの?」コンソメパンチのポテトチップスを気がつけば延々と食べていた百永が当然であろう疑問を口にした。「ロミオの新しいバイトが彼だったの」「えー!何それ運命⁈」左手にポテトチップスを持ったままの百永を始め、皆が目を丸くした。にやにやしている亜樹を除いて。「あれ?亜樹もロミオだよね、バイト」真希が空になった焼き鳥のパックを手早く片付けた。こういう気遣いが彼氏の有無を分けるのだろうか?「そうだよ。で、亜樹?亜樹はどうなの?」ついに来たよ?亜樹を吐かせるときが。「私?私は特に無いよ。……ん、梅サワーも美味し」「無くは無いでしょ?特別枠はいるってこないだ言ってたじゃん?」夜は長い。逃がさないよ亜樹さん?「もう会えない人だから。特別枠から外したくても外れてくれなくてじたばたしてんの」寂しそうに笑う亜樹に、皆がそれぞれ言葉を探しているのがわかる。「──特別枠って、桐生《きりゅう》くん?」百永の言葉に、亜樹の顔が一瞬強張った。「ダメだね。まだ、名前聞くだけで顔が固まっちゃうってね。別れて結構経ってるのに」「えっと、亜樹……その、もしかして。高校のときの彼氏……とか?」亜樹に不用意に斬り込んだ者としての責任。とっても聞きづらいけど、聞くよ、私。「すっごい好きだったんだけどね。私、剣道やり過ぎちゃったのかなあ。俺と別れて部活頑張れって言われちゃって。頭真っ白で、それ以上何も言えなくて。で、それっきり」何
大学から30分程車で走ったところにあるスーパー銭湯。明有花の家のシャワーを借りても良かったけど、みんなでワイワイお風呂に入るのもこれまた楽しい。「亜樹……やっぱりおっきいね」「え、ちょ、お触り禁止!」露天風呂で同じ湯船に10人一斉に入る。先に入浴していたおばさまが迷惑そうにこちらをチラ見して出て行った。ちょっとは申し訳ないけど、私達だって皆一緒に入りたいのだからしょうがない。「ん。亜樹の胸はおっきいね。どれだけ揉まれてたの?」「ちょ、百永!」百永が亜樹の膨らみを指でつついたのをきっかけに、皆でにやにやしつつ亜樹の胸に人差し指を近付ける。しかし百永、切り込むなあ。「桃歌の胸だっておっきいでしょ!ほら!」亜樹からも反撃を喰らう。女同士だと胸が大きいのはただのイジりにしかならない。「亜樹と桃歌の歴代の彼氏達はこの胸を堪能してたんだ……」スレンダーな真希がしみじみしながら私と亜樹の胸をじっと見た。「彼氏達って……私、1人しかいなかったよ」「私だって1人だけだよ。そんな歴代って」亜樹に身体を許した彼氏がいたんだ。大学入ってからは浮いた話を聞いてなかったから、高校かな?「それ、詳しく聞きたいけど。ここではのぼせそうだから私の家戻ろうか」異論は無かった。ついに皆の恋バナ、一斉公開、だな。「──では、奇跡の10人全員参加に」明有花の合図で「かんぱーい!」と缶チューハイを軽くぶつける。10人中誰もビールは選ばなかった。大学には入ったけど二十歳ではない私達はビールが飲めるほどお酒を嗜んでいなかった。未成年者が飲酒なんてけしからんって?皆それぞれ部活やらサークルやらバイト先で飲酒デビューした後だから、誰もそこに言及する人はいなかった。私のお気に入りはほろよいの白だ。「最近百永はどうなの?」「えっ⁉︎私⁉︎」この部屋の家主で恋バナの斬り込みが多い明有花が百永を指名した。「高瀬くんとどうなってんの?」にやにやと笑みを浮かべた亜樹もレモンサワーを手に百永に話を向ける。「高瀬くんって、こないだ百永に声掛けてきたガタイのいい人?」あの時百永は声掛けられて耳まで真っ赤になってたっけ。「そ。野球部男子とマネージャー。どうなの百永。付き合ってんの?」「亜樹斬り込むねえ」花音の手には梅チューハイ。渋いな。「つ、付き合って、ないよ」
ロミオでバイトしてるときのそうちゃんと、私とLINEしてるときのそうちゃんの態度が違い過ぎる。他の店員や店長の前だといつもの速水くん。クールで硬派な、口数の少ない速水くん。なのに、LINE上だとこれだ。『ももちゃん、いつなら空いてんの?』『シフト見たら分かるでしょ』『じゃあシフト入ってないとき全部俺とデートね』『いやサークルあるし』『……ももちゃん、つれない。俺拗ねちゃうよ?』ずっとこんな調子だ。クールな一匹狼からお腹丸見えのワンコに早変わり。変わり過ぎでしょ。そもそも、そうちゃんは彼氏になったわけじゃない。私達、付き合ってない。告られても告ってもない。なのにこの甘いLINEは何なんだ。伊沢くんとすら、こんな甘いLINEは無かったというのに。あ、私は割と塩か。伊沢くんのときは、彼女っぽい文面を考えた。でもそうちゃんにはそんなこと考えない。そうちゃんは彼氏とか恋人という感じじゃなくて。そうちゃんはそうちゃんだ。それ以外に適する枠が無くて。言うなればそうちゃんはそうちゃん枠の人になる。「それってだいぶ、特別枠なんじゃないの?」「うーん……」2限までの授業が終わり、百永は野球部へ。亜樹は剣道部が後からあるらしい。他の皆はバイトの時間を早めたそうで、私と亜樹だけが学食に残っていた。「亜樹はいないの?そういう枠の人」私の放った言葉に、亜樹は一瞬視線を落とした。大学で友達になってから亜樹には浮いた話が全然無かった。剣道部の飲み会には参加してるみたいだけど、だからといってそこで何かあったという報告は無かった。亜樹にもそうちゃん枠みたいな、別枠の人がいるんじゃないかと何となく思っていた。「いたけどね」「いたんだ。でも過去形?」「んー……そうだね、過去形」力無く笑う亜樹を目の前に、私はこれ以上聞いていいのか迷った。「これ以上突っ込んで聞くかどうか迷ってる?」「えっ……うん。聞いても大丈夫なやつ?」「国語科の皆だったら話せるけど……。でもまだ、消化出来てなくて。上手く言語化できないっていうか」わかる。適した言葉が見つからないときって、ある。無理やり紡いだ言葉で説明して相手が全く違う解釈をしたときなんて軽く絶望を覚えるもの。「アルコール入ったら語れるかも?」「そうかも」さっきよりも目に力の入った亜